最初の転職先では営業職。メーカー本社において数日間の宿泊研修を受けることになった。

営業品目は主にキャノン製品であり、信頼のある会社が製造する複写機などOA機器であった。

2日間の研修では合計で約数十名の中途入社者が集まり例えば港区のある宿でペアになって二人一組のペアになってその地域にあるビルを最上階から一軒一軒ドアをノックする訪問営業を行った。

当然のことながら営業技術が不足している大学卒業間もない私にとっては苦痛以外何ものでもなかった。

 とにかく次から次へドアをノックして訪問し続けるという研修であった。

午後から訪問営業を開始し1日に数十件の企業を訪問することを5日間、継続したことを記憶している。

これが販売会社と無理に納得しながら、転職したからにはやるしかない気持ちで惰性で研修を受けた。

ただし、数十件も訪問すればどんなに下手なセールストークであれ、1件ぐらいは見積もりをして欲しいとか、引き合いに出会えることがわかった。

これは五日間の研修の中では実績を出さなくても良く、別に売れなくても良いという楽な気持ちで取り組んだけれども、量をこなせば、平均して1件ぐらいは、見積もり引き合いが取れるということを理解した。

おそらく会社としてはこういった確率的なところを身につけ覚えさせるという意図があったのではないかと思われる。

訪問する件数を増やせば増やすほど引き合いは増していく。人波に実績がでないのは、そもそも訪問していないからだということが、セールスのプロからみれば明らかになるのが訪問営業である。

現在、私の職位は経営陣と同レベルの役職につき営業とはあまり縁がない職種であるが、営業の苦しい気持ちは当時の経験を通じて十分理解できている。

次から次に新規訪問することは相当しんどいことはわかっている。

しかし成果を上げるためにはいかに効率よく物を売るかではなくて、いかにたくさんの見込み客にアプローチできるかにかかっている。つまり、いかに多くの顧客にアプローチしたかで決まるものである。

 セールストークの良し悪しとか、ターゲティングをしっかりやるとかいうのは、多くの訪問ができるようになってからのことである。

多くの訪問をこなす行動に移せるだけでも、十分な成果をあげられる。このことは過去の経験から得られたものである。

最初の転職先では、このような研修を経て、いよいよ正式な部署に配属されることになった。

私が最初に配属されたのは東京支店であった。

朝8時30分頃出社して9時から朝礼が始まる。

当時は大手のメーカーの販売会社から出向してきた部長が朝礼の司会を行っていた。

昨日、受注獲得した営業マン本人が受注報告するものである。

誰から、何を、いくら受注したかを誇らしげに発表するものである。

事務所の壁にはそれぞれの営業マンの名前と受注状況がグラフで貼り付けされている。1台受注する毎に徐々にグラフの長さが伸びるのである。

私は月に1件売れるか売れないか程度で、非常に劣った営業マンであった。

成績順位はビリに近く、ただ一台も売れないというわけではなく、最低1件は受注をとるという、クビになるスレスレの成績を1年間続けた。

だから、中には1台も売れない営業マンなどがいて、そういう営業マンに対しては変な優越感をもっていたのを覚えている。

このような状況から1年が過ぎようとしたある時、どんなにサボっても1台は売れていたのが、運悪く1台も売れない月の終わり頃、ヤバいと思い、本気で訪問し続けたときのことである。

結果として残り1日を残してゼロ受注となっている状態で当時の上司である課長代理からひと言告げられた。

「このまま、ゼロでいいと思っているのか」

「今までは、何とか1台売っていたが、さすがにゼロの月があると、これまでの成績からみて、もうこの会社ではやっていけないと思うが」

当然の通告であった。

私は納得して、「やはり、自分には訪問販売は向いていないので、会社を辞めたいと思います。」

上司はうなづくように、「そうだな!」ということで、私の営業職のキャリアはわずか1年で終了したのであった。